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旅立ちの日

卒業式のシーズンをむかえました。
別れのせつなさと、
新たな旅立ちへの期待とが入り混じった、
節目の季節にふさわしい一冊

"Allrakärarste syster"
(「だいすきなおねえちゃん」 
アストリッド・リンドグレーン作 
アーノルド・ローベル絵 Raben&Sjögren社)

表紙

「わたし」は、7歳の女の子。
ひみつのふたごのいもうとがいます。

いもうとの名前は、イルヴァ・リー。
でも、お父さんもお母さんも、
イルヴァ・リーのことは、何も知りません。

二人とも、
生まれたばかりの弟のめんどうを見るのに
いそがしいのです。


庭のすみの、ばらのしげみの下には、
イルヴァ・リーのすむおしろへの入り口があります。

ばらのしげみ

わたしとイルヴァ・リーは、
おしろで、いっしょに楽しく過ごします。

おしろの中

うさぎをなでたり、水あびをしたり、
馬にのってでかけたり。

イルヴァ・リーは、わたしのことを
「だいすきなおねえちゃん」とよびます。
わたしのことが、だいすきなのです。


ところが、あるとき、
イルヴァ・リーが、急にいいました。

「だいすきなおねえちゃん、
ばらのしげみがかれてしまったら、
わたしはしんでしまうの」

わたしは、信じられません。

別れ

イルヴァ・リーと別れて、うちへもどると、
お父さんとお母さんが
心配して、わたしをまっていました。

さらに、思いがけない贈り物が。

お父さんが、
子犬をプレゼントしてくれたのです。
わたしは、うれしくてたまりません。

子犬


つぎの日、ばらのしげみを見にいくと、
ばらはかれて、
おしろへの入り口は、
どこにも見つかりませんでした。



自分もちゃんと愛されていると
気がついたわたしは、
自分のからにこもることから卒業し、
ひとつ、おとなになったのでしょう。

別れのさびしさと、
その先にある心の成長を、
美しい絵ともに描いた絵本です。



アストリッド・リンドグレーンは、
日本でもおなじみ
「長くつ下のピッピ」の作者でもあります。

リンドグレーンが幼少期を過ごした、
ビンメルビーの町

Vimmerby.jpg


彼女のゆかりの場所やものが、
町のあちこちに残っています。


リンドグレーンの通った小学校

samskolan(リンドグレーンが通った学校)

とてもおてんばな少女だったようです。
彼女の作品の多くは、
子ども時代の思い出がもとになっています。


でも、しあわせな子ども時代も、
いつかは卒業しなくてはなりません。

リンドグレーンは、のちに、
自らのティーンエイジャーの時代を、
「人生のうちで、まったく楽しくなかった」
と回想しています。

髪を切り、ダンスに興じ、
当時しては型破りなことばかりしていたため、
周囲からは冷たい目で見られていたようです。

「長くつ下のピッピ」の主人公ピッピも、
馬を持ち上げ、サルをしたがえ、
まくらに足をのせて眠ったり、
テーブルや戸だなの上をとびまわったり、
とんでもない、と、
出版当初は、はげしい批判をあびました。

しかし、作者もピッピも、
そうした批判を乗り越えて
今や、世界中で愛される存在となっています。

慣れ親しんだ世界からの旅立ちは、
かなしく、つらいものですが、
それを乗り越えた先に
大きな成長があるのでしょう。


ビンメルビーの町の広場には、
いすにすわってタイプを打つ、
リンドグレーンの銅像も。

リンドグレーンの像

むかいのいすにこしかけて、
像に話しかける人もいるくらい、
人々に親しまれています。





(絵本の写真は、出版社の許可を得て掲載しています。)


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あたらしい場所でがんばる方々へ

今日、ご紹介するのは、さみしいときやつらいとき、勇気を与えてくれる絵本

"En liten fågel och en stor sång”
(「ことりのうた」 ペトラ・サーボ 作・絵 Opal社)

北の森で生まれそだったことりは、
動物たちとなかよく、楽しく暮らしていました。

北の森

やがて、夏がすぎ、冬がやってくる前に、
ことりは南の国へ渡らなくてはならなくなります。

泣く泣く、友だちと別れ、
北の森を後にしたことりは、
くる日もくる日もとびつづけました。

旅立ち

ようやく、南の国へつきました。
ことりは、長旅とかなしさでつかれはて、
そのまま、ねむってしまいました。


朝になり、目をさますと、
一本の大木のまわりに、たくさんの生き物が集まっていました。

今日は、大木の千歳の誕生日。
みんな、お祝いにやってきたのです。

大木

ことりは、大木の前に立ち、うたいはじめました。

なつかしい北の森のうたを。
うたっているあいだ、ことりはしあわせでした。

ことりのうたを聞いたみんなは、
声をあわせてうたいだします。

キリンは、キリンのうたを。
ゾウは、ゾウのうたを。

新しい友だち

みんなは、いっしょに千年のうたをうたい、
ことりには、あたらしい友だちができました。


作者のペトラ・サーボさんは、西ドイツ生まれで、移民としてスウェーデンにやってきました。
スウェーデンは、移民がとても多い国です。
近年は、特に、イラクやアフガニスタンからの移民が多く、難民として逃れてきた人々を積極的に受け入れてきました。
そうした移民たちへの支援も、いろいろと行われていますが、彼らがあたらしい暮らしになじむのは、簡単ではありません。


過去にとらわれてばかりではいけない。
でも、過去を忘れる必要はない。
思い出を大切にしながら、
あたらしい今を精いっぱい生きる。

自身も移民である作者は、そんな思いをことりに託したのかもしれません。



ことりのうた

うたっていると、ことりは、北の森にいるようなきもちになりました。
北の森にも、南の国にも、どちらにもいられるのでした。


故郷をはなれ、あたらしい場所でがんばっている方々へ、エールを送ってくれる絵本です。




北スウェーデンに暮らす生き物たち。

ヘラジカ

ヘラジカ


トナカイ

トナカイ (2)


ライチョウ

ライチョウ


ことりはきっと、彼らのこともうたってきかせたのでしょう。





(絵本の写真は、作者および出版社の許可を得て掲載しています。)

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イマドキのおひめさま

3月は、女の子の祭典ひなまつりの月。
おひなさまの季節です。

そこで、今日ご紹介する絵本は、おひなさまならぬ、おひめさまの絵本

"Så gör prinssesor"(パール・グスタフソン作・絵 Natur och Kultur社)

表紙


あざやかなピンクの表紙に描かれているのは、
おしとやかそうなおひめさま
と思いきや……

表紙をめくると、

ボクサー

アッパーを決めるおひめさまが!

実は、このおひめさま、今までのイメージを覆す、まったく新しいタイプのおひめさまなんです。


アイスホッケーだってするし、

アイスホッケー


悪者から村を救ったり、
ドラゴンにも、勇敢に立ち向かいます。



korv.jpg

ドラゴンのはく炎で、ソーセージを焼くなど、
余裕もたっぷり。



今どきのおひめさまは、おうじさまの助けを待っている場合ではありません。

王子救出

むしろ、積極的に助けに行ってしまいます。



一方で、服選びにさんざん迷ったり、
髪を1000回とかすなど、おしゃまな一面も。

ブラッシング



女性の活躍のめざましいスウェーデンから、
現代女性を象徴するような、パワーあふれるおひめさまの絵本をお届けしました。


さて、おひめさまもしているアイスホッケーですが、
スウェーデンは、ソチオリンピックでも、男女ともに活躍し、その強さを知らしめました。

私が現地で通っていた学校のそばのスポーツ施設でも、よくアイスホッケーの試合が行われ、クラブを手にしたちびっこたちの姿を見かけたものでした。

また、学校の休み時間には、室内でホッケーに興じる人たちもいて、何度かまぜてもらったこともあります。

アイスホッケーの一流選手を目指す女の子が主人公の物語シリーズもあるくらい、スウェーデンでは、男女を問わず、人気のスポーツの一つのようです。



Östasiatiska Museet Japans utställning (3)

ストックホルムの東アジア博物館に展示された、日本のおひなさま





(絵本の写真は、作者の許可を得て掲載しています。)

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プロフィール

きただい えりこ

Author:きただい えりこ
スウェーデンに留学し、児童文学と文芸創作を学ぶ。
現在は、小学校の司書をしながら、スウェーデンの絵本・児童書の翻訳と紹介を行っている。
よみうりカルチャー荻窪教室「絵本で学ぶスウェーデン語」講座元講師。
日本の絵本・児童書をスウェーデン語に翻訳し、スウェーデンで紹介もしている。

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