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わたしはだれでしょう?

3月に
ベルギーで起きたテロ事件。
犯人のひとりは、
スウェーデンで生まれ育った男でした。
アラブ系のいわゆる移民2世です。

スウェーデン社会は、
衝撃の事実に
今、ゆれています。

男を犯罪に走らせたのは、
いったい何だったのでしょう。

今回は、
こんな物語をとおして
考えてみたいと思います。

"Avblattefieringsprocessen"
(「移民同化政策」
Zulmir Becevic 作・Alfabeta社)


Avblattefieringsprocessen 表紙

主人公のアレンは、
ボスニアから難民として
スウェーデンに逃れてきた父と、
スウェーデン人の母とを
両親に持つ少年です。

スウェーデンで生まれ育ったアレンは、
見た目は黒髪のスラブ系ですが、
父の故郷のボスニアには
行ったこともなく、
自分はれっきとした
スウェーデン人だと思っています。

そんな中、まわりでは、
移民に対する圧力が
ひじょうに高まっていきます。

アレンの母はすでに亡くなり、
父は、移民という理由から
会社をクビになった上、
刑務所に送られてしまいました。

やがてアレンは、
Avblattefieringsprocessenという、
スウェーデンで生まれた移民2世
すなわち、もはや
国外退去させられない人々を
対象にした、
移民同化政策に
取り込まれていきます。

移民たちを
スウェーデン人化するという、
この政策により、
アレンは、
きれい好きなスウェーデン人の
アイデンティティを習得するため、
スウェーデン人の老人の家で、
そうじや草取りをさせられるはめに。

また、銀行での順番待ちの仕方や、
知らない人の家に勝手に上がって
フィーカ(お茶)を
ねだってはいけないことなど、
礼儀正しいスウェーデン人の
常識について学ばされます。

さらに、
スウェーデングッズのつまった
カバンをわたされ、
スウェーデン人らしさを
習得するようにといわれます。

しかし、
自分には何がたりないのか、
スウェーデン人らしさとは
いったい何なのか、
アレンにはさっぱり分かりません。

やがて、
政策はエスカレートしていき、
アレンは、移民2世たちを
集めて隔離した町へと
連れていかれます。
そこで、他の移民たちとともに、
スウェーデン人らしさを
身に着けるための
共同生活を
強いられるようになりました。

アレンがどうにか町から逃げ出し、
国外へと亡命していくところで、
物語はおわります。


自分の中にある、
スウェーデン人としての
アイデンティティが
まわりから否定され、
異質なものとして
扱われることに対し、
アレンはそこから逃れようと
するだけにとどまりましたが、
その疎外感が恨みや憎しみへと
変わってしまったとき、
ベルギーのテロのような悲劇が
起こることに
つながりかねないのでは
ないでしょうか。


性別や既成の概念にとらわれず、
男女平等や
子どもの権利をうったえてきた
スウェーデンですが、
民族や文化の
バックグラウンドのちがいも
のりこえて
個人の平等を
尊重していけるかどうかが
問われている気がします。


次回の更新は、5月下旬の予定です。



(本の表紙の写真は、出版社の許可を得て掲載しています。)
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テーマ : 本の紹介
ジャンル : 学問・文化・芸術

プロフィール

きただい えりこ

Author:きただい えりこ
スウェーデンに留学し、児童文学と文芸創作を学ぶ。
現在は、小学校の司書をしながら、スウェーデンの絵本・児童書の翻訳と紹介を行っている。
よみうりカルチャー荻窪教室「絵本で学ぶスウェーデン語」講座元講師。
日本の絵本・児童書をスウェーデン語に翻訳し、スウェーデンで紹介もしている。

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