- 2016-09-28 :
- 読み物(小学校高学年~)
姿を消した少女たち
新学期がはじまって、
早一か月がたちました。
スウェーデンの学校も、
6月のはじめからはじまった
長い夏休みが終わり、
8月の半ばから
新学期がスタートしています。
新たな気持ちでむかえる
新学期ですが、
夏休みが終わっても
学校にもどってこない
少女たちが増えていることが、
スウェーデンではここ数年、
問題になってきています。
その原因を、
こんな物語をもとに
考えてみたいと思います。
“Fallen flikca”
(「落とされた少女」
Christina Wahldén 作
Raben & sjögren社)

主人公の少女ローナは、
一家でアフガニスタンから
スウェーデンへ逃れてきた
16歳の少女です。
父、母、兄、幼い妹たちのいる
大家族の長女で、
家事や妹たちの世話は
すべてローナの役目です。
ローナは、父と兄の厳しい管理下におかれ、
少しでも逆らおうものなら、
殴りつけられます。
学校から帰る時間も厳しく決められ、
1分でも遅れてはいけません。
遅れれば、父にベルトで殴られます。
あまりの痛さに悲鳴をあげると、
父は、ラジオの音量を上げ、
悲鳴が聞こえないようにします。
そのため、近所の人はだれも
虐待に気がつきません。
ローナは学校が大好きですが、
父親は、女性に学問は不要、と
進学をあきらめさせようとします。
そんなある日、ローナは、
授業で人権について学びました。
だれにでも教育を受ける権利があり、
結婚相手を自由に選べ、
仕事の休暇を取る権利があると知り、
ローナはしだいに、
自分が奴隷のように扱われていることに
反発を感じるようになっていきます。
勉強を続けたり、自由に出かけたりしたい。
ローナは、一人で外出することも許されず、
つねに兄が見張り役としてついてくるなど、
いつでも監視下にありました。
一方の兄は、スウェーデン人の彼女と、
いつもほっつき歩いています。
このスウェーデン人の彼女は、
整形手術の費用を自分の父親にせびるなど、
かなり奔放で、
同じスウェーデンに暮らす女の子でも、
ずいぶん異なっている様子が分かります。
あるとき、ローナは父親から、
親戚の男性と結婚するよう
命じられたのを機に、
とうとう不満を爆発させます。
父親から、激しい暴力を受けたローナは、
先生に助けをもとめますが、
最後は、父と兄によって、
ベランダから突き落とされて、
死んでしまうのです。
作者のChristina Wahldénさんは、
このような、女性や少女たちの不当な立場
とりわけ名誉殺人について取り上げた作品を
数多く書いています。
名誉殺人とは、
一族の中で、名誉を汚したとされる者に対し、
一族内で行われる殺害のことです。
被害者になるのは、主に女性で、
一族に認められていない男性と口をきいたり
付き合ったりした場合や、
一族が命じた男性との結婚を拒んだ場合、
離婚を申し出た場合
などさまざまです。
女性蔑視や男性優位の考え方が浸透している
国から移り住んできた人々にとって、
今までの考え方を180度変えて、
男女平等の先進国スウェーデンの
考え方を受け入れるのは、至難の業です。
そのため、スウェーデンでも、
たびたび名誉殺人が起こり、
問題になっています。
名誉殺人が正当化されている国々では、
名誉殺人は罪に当たりませんが、
スウェーデンでは、もちろん、
ふつうの殺人罪と同じように裁かれます。
ただ、こうした殺害は、
はっきりとした証拠が残らないことが多く、
自殺とみなされ、
不起訴にされてしまう場合も多いそうです。
新学期がはじまっても
もどってこない少女たちの中には、
実は、そうした危険のある子が
少なくありません。
しかし、そのような少女たちの
追跡調査を行っている学校は、
ひじょうに少ないのが現状のようです。
少女たちを保護するための
シェルターもつくられており、
政略結婚を逃れるため、
名前を変えて
シェルターで暮らしている子もいます。
それでも、まだまだ支援は不十分で、
学校、ソーシャルワーカー、
警察、大使館などが
国際的に連携して動くことも
重要になっています。
なにより、まずは、
そのような抑圧された少女たちの現状を
より多くの人に知ってもらい、
考える機会を持ってもらうということが、
大切なのではないでしょうか。
その意味で、
この作品の意義は大きいといえます。
次回の更新は、10月末の予定です。
(表紙の写真は、出版社の許可を得て掲載しています。)
早一か月がたちました。
スウェーデンの学校も、
6月のはじめからはじまった
長い夏休みが終わり、
8月の半ばから
新学期がスタートしています。
新たな気持ちでむかえる
新学期ですが、
夏休みが終わっても
学校にもどってこない
少女たちが増えていることが、
スウェーデンではここ数年、
問題になってきています。
その原因を、
こんな物語をもとに
考えてみたいと思います。
“Fallen flikca”
(「落とされた少女」
Christina Wahldén 作
Raben & sjögren社)

主人公の少女ローナは、
一家でアフガニスタンから
スウェーデンへ逃れてきた
16歳の少女です。
父、母、兄、幼い妹たちのいる
大家族の長女で、
家事や妹たちの世話は
すべてローナの役目です。
ローナは、父と兄の厳しい管理下におかれ、
少しでも逆らおうものなら、
殴りつけられます。
学校から帰る時間も厳しく決められ、
1分でも遅れてはいけません。
遅れれば、父にベルトで殴られます。
あまりの痛さに悲鳴をあげると、
父は、ラジオの音量を上げ、
悲鳴が聞こえないようにします。
そのため、近所の人はだれも
虐待に気がつきません。
ローナは学校が大好きですが、
父親は、女性に学問は不要、と
進学をあきらめさせようとします。
そんなある日、ローナは、
授業で人権について学びました。
だれにでも教育を受ける権利があり、
結婚相手を自由に選べ、
仕事の休暇を取る権利があると知り、
ローナはしだいに、
自分が奴隷のように扱われていることに
反発を感じるようになっていきます。
勉強を続けたり、自由に出かけたりしたい。
ローナは、一人で外出することも許されず、
つねに兄が見張り役としてついてくるなど、
いつでも監視下にありました。
一方の兄は、スウェーデン人の彼女と、
いつもほっつき歩いています。
このスウェーデン人の彼女は、
整形手術の費用を自分の父親にせびるなど、
かなり奔放で、
同じスウェーデンに暮らす女の子でも、
ずいぶん異なっている様子が分かります。
あるとき、ローナは父親から、
親戚の男性と結婚するよう
命じられたのを機に、
とうとう不満を爆発させます。
父親から、激しい暴力を受けたローナは、
先生に助けをもとめますが、
最後は、父と兄によって、
ベランダから突き落とされて、
死んでしまうのです。
作者のChristina Wahldénさんは、
このような、女性や少女たちの不当な立場
とりわけ名誉殺人について取り上げた作品を
数多く書いています。
名誉殺人とは、
一族の中で、名誉を汚したとされる者に対し、
一族内で行われる殺害のことです。
被害者になるのは、主に女性で、
一族に認められていない男性と口をきいたり
付き合ったりした場合や、
一族が命じた男性との結婚を拒んだ場合、
離婚を申し出た場合
などさまざまです。
女性蔑視や男性優位の考え方が浸透している
国から移り住んできた人々にとって、
今までの考え方を180度変えて、
男女平等の先進国スウェーデンの
考え方を受け入れるのは、至難の業です。
そのため、スウェーデンでも、
たびたび名誉殺人が起こり、
問題になっています。
名誉殺人が正当化されている国々では、
名誉殺人は罪に当たりませんが、
スウェーデンでは、もちろん、
ふつうの殺人罪と同じように裁かれます。
ただ、こうした殺害は、
はっきりとした証拠が残らないことが多く、
自殺とみなされ、
不起訴にされてしまう場合も多いそうです。
新学期がはじまっても
もどってこない少女たちの中には、
実は、そうした危険のある子が
少なくありません。
しかし、そのような少女たちの
追跡調査を行っている学校は、
ひじょうに少ないのが現状のようです。
少女たちを保護するための
シェルターもつくられており、
政略結婚を逃れるため、
名前を変えて
シェルターで暮らしている子もいます。
それでも、まだまだ支援は不十分で、
学校、ソーシャルワーカー、
警察、大使館などが
国際的に連携して動くことも
重要になっています。
なにより、まずは、
そのような抑圧された少女たちの現状を
より多くの人に知ってもらい、
考える機会を持ってもらうということが、
大切なのではないでしょうか。
その意味で、
この作品の意義は大きいといえます。
次回の更新は、10月末の予定です。
(表紙の写真は、出版社の許可を得て掲載しています。)
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