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潜入!言語カフェ

お待たせしました!
スウェーデンおはなし旅、復活です。
またよろしくお願いします。


4月から5月にかけて
スウェーデン各地の
図書館を訪問してきました。

今回は、その報告を交えつつ、
作品をご紹介したいと思います。


言語カフェの案内チラシいろいろ

図書館で行われている、
さまざまな言語カフェの案内チラシ。
språkcafé(言語カフェ)や
stickcafé(編み物カフェ)などがあります。
図書館が人々の集いの場所の
ひとつとなっています。

こうしたカフェでは、
きまってお茶とクッキーが出され、
テーブルを囲んで
意見交換が行われます。

språkcafé(言語カフェ)には、
いろいろな種類があります。
スペイン語、ロシア語、アラビア語、
日本語カフェもありました。
みんなでわきあいあいと
おしゃべりしながら、
その国の言葉に慣れ親しみ、
話す機会を多く持ってもらう
というのがねらいです。


わたしは今回、
いくつかの図書館の
スウェーデン語の言語カフェに
潜入しました。

スウェーデン語のカフェは、
移民や難民の人たちに、
早くスウェーデン語を習得し、
社会に溶け込んでもらおうと、
会話の訓練の場を提供するものです。

図書館によってやり方はさまざまですが、
たいていは、ボランティアの人が
一つのテーブルに1人の割合で座り、
進行役をしてくれます。

あるカフェでは、
まだほとんど話せない初心者のグループと、
ある程度理解ができる中級のグループと、
2つにレベル分けをしていました。

レベル分けせず、
自由に好きな席に座り、
同じテーブルになった人たちと
話をするというカフェもありました。

しかし、そうすると、
まだあまり話せない人は
なかなか話の輪に入れず、
手持ち無沙汰にしている様子が
見られました。
レベル別に分かれている方が、
みんな積極的に発言している印象でした。

進行役の力量も重要です。
うまい人は、みんなが発言できるよう、
全員に話をふり向けていました。

はじめに、同じテーブルに座っている全員が、
一人ずつ簡単に自己紹介をし、
そのあと、話す話題を決めますが、
多くの図書館では、
カードを使って決めていました。

いろいろな質問が書かれたカードが、
一人ひとりに配られます。

たとえば、
「100万円あったらどうするか」
「子どものころの夢は何だったか」
「人生でもっとも影響を受けた人はだれか」
などと書かれており、
自分のカードに書かれた質問について、
順番に答えていきます。

話したい話題を参加者から募る場合も
ありました。
また、政治と宗教の話題は厳禁
というカフェもありました。


いくつか参加した中から、
特におもしろかったものを
ご紹介します。

イェーテボリの図書館のカフェでは、
わたしも含めて7人の参加者と、
ボランティアの方1人で行いました。

参加者の中には、
シリアから来た男性で、
5歳の息子を
シリアに残してきている
という方がいました。

息子さんと毎晩スカイプで、
サッカーの話をするのが
何よりの楽しみだそうです。

シリアでは医者をしていましたが、
スウェーデンでも医者として働きたいと、
現在試験勉強中とのことでした。

ソマリア出身の青年も二人いました。
現在は、高校に通って
スウェーデン語の習得に
はげんでいるそうです。

2015年9月30日の記事でご紹介した、
"Baddräkten"(「水着」)は、
家族とともにスウェーデンに
移り住んできた
ソマリア人の女の子が
文化のちがいに直面するという
おはなしでした。

主人公の女の子は、
学校のプールの授業に
参加したいのですが、
両親に許してもらえません。

「ソマリア人の女の子は
男の子と一緒に泳がない。
泳いではいけない。
そういうきまりだから」
おはなしの中には、
そんな一節が出てきます。

実際はどうなのか、
ソマリア人の青年たちに
きいてみたところ、
この一節とそっくり同じ答えが
返ってきたのには
おどろきました。

また、青年の一人には、
女のきょうだいがいるそうですが、
ソマリアでは、女性が家事をし、
男性は外で働くというのが当たり前で、
とくに疑問には思わないそうです。

これに対し、
スウェーデン人の進行役の方が、
「でも、今はスウェーデンに
住んでいるのだから、
あなただって、
自分で家事をしないわけに
いかないんじゃない?」
と質問したところ、
今は自分でしているとのことでした。

男性の自分にも家事はできるけれど、
ソマリアではやらない。
そういうきまりだからだそうです。

シリア出身の男性からは、
「医学的に見て、女性と男性とでは、
もともと得意なことがちがうのではないか」
という意見が出ました。

女性は一度にいろんなことをするのが得意で、
たとえば、電話で話しながら
料理を作ったりできるけれど、
男性の自分にはとてもできない。
そのかわり、
男性は一つのことに秀でている場合が
多いのではないか。

すると、
これまたスウェーデン人の
司会役の女性が猛反発。


また、別の図書館のカフェでは、
イラン出身の女性と、
ソマリアの隣国出身の女性と
いっしょのテーブルになったので、
同じくたずねてみると、
男性と一緒に泳いではいけないというのは、
やはり、そういうものだからで、
疑問には思わないそうです。
それが現地では当たり前で、
男性と一緒に泳ぐなんてありえない、
と笑っていました。

現地では当たり前のきまりで
規制があることも、
スウェーデンにきたら
規制がないのでできるのでは、
ときいてみたところ、
たとえば、ショールをつけないでいるとか、
水着を着て泳ぐとか、
自転車に乗るとか、
スウェーデンではやろうと思えば
できるかもしれないけれど、
肌を見せるのははずかしいから、
とてもできない、といっていました。


今回、言語カフェに参加して、
文化や慣習のちがいにより、
考え方もさまざまだというのが
とてもおもしろく、新鮮でした。

言語の習得はもちろんですが、
あたらしい出会いや
思いがけない発見が
たくさんあるというのも、
言語カフェの大きな魅力の
ひとつではないでしょうか。


最後に、
その魅力を存分に描いた、
こんな物語をご紹介します。

"Mitt rätta namn"
(「わたしのほんとうの名前」
Åsa Storck 作 Vilja社)

Mitt rätta namn 表紙

図書館の言語カフェで出会った、
シリというおばあさんとヤッレという少年。
二人の視点が交互に描かれていきます。


シリは、言語カフェの常連です。
第二次世界大戦中、
まだ子どもだったシリは、
一人ぼっちで
フィンランドからスウェーデンへと
戦火を逃れてきました。
それ以来、今までずっと
スウェーデンで暮らしています。

一方のヤッレは、
家族とはなれて、たった一人、
イラクからスウェーデンに
逃れてきたばかりの少年です。
支援員の人に連れられて、
この言語カフェにやってきました。
案内されたテーブルにすわっていたのが
シリでした。

とまどっているヤッレにおかまいなく、
支援員の人は、
シリにヤッレを紹介します。

でも、ヤッレという名前は、
実は本名ではなく、
支援員の人がよびやすいようにつけた
あだ名でした。

「ぼくのほんとうの名前は、
ヤーマルです」
まだスウェーデン語のできない少年は、
身ぶり手ぶりで
必死に伝えようとします。

その熱意に心を動かされたシリも、
これまで隠していた自分のほんとうの名前を
少年にうち明けます。

シルパというのが、
シリのほんとうの名前でした。
フィンランド人の名前ではまずいからと、
スウェーデン風の名前に
変えていたのです。


シルパとヤーマル。
共に何も持たずに逃れてきた
ふたりにとっては、
名前だけが、ただ一つ、
ずっと持ち合わせてきた
ものだったのです。

ふたりはしだいにうち解け、
心を通わせていく。
そんな物語です。


言語カフェは、
なくしかけていた
誇りや自信を取りもどす
きっかけとなる場とも
なりうるかもしれません。


次回の更新は、7月の予定です。



(本の表紙の写真は、作者の許可を得て掲載しています。)
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テーマ : 本の紹介
ジャンル : 学問・文化・芸術

プロフィール

きただい えりこ

Author:きただい えりこ
スウェーデンに留学し、児童文学と文芸創作を学ぶ。
現在は、小学校の司書をしながら、スウェーデンの絵本・児童書の翻訳と紹介を行っている。
よみうりカルチャー荻窪教室「絵本で学ぶスウェーデン語」講座元講師。
日本の絵本・児童書をスウェーデン語に翻訳し、スウェーデンで紹介もしている。

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