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ゾーレ 列車で出会った女の子

あけましておめでとうございます。

すっかりご無沙汰してしまいましたが、
スウェーデンおはなし旅、
またときどき
つづっていきたいと思いますので、
今年もどうぞよろしくお願いします。

今回は、
あたらしい年のはじまりを記念して、
昨年、わたしが体験した
「あたらしい出会い」を
おはなしふうに紹介します。


去年の夏、
スウェーデンの北にある町から、
首都のストックホルムに向かう
夜行列車に乗っていたときのことでした。

夜行列車

とちゅうの駅で、
異国風の女の子が
ひとりで列車に乗ってきて、
わたしのとなりにすわりました。

「よかったらどうぞ」
女の子は、わたしに
バナナをさしだしました。

わたしはちょっとびっくりしましたが、
「ありがとう」といって
バナナを受け取りました。

すると、
「これもよかったら」と
女の子がまたいって、
今度は、大きなももをさしだしました。
「お父さんが、
みんなで食べなさいって、
持たせてくれたの」

女の子は、ゾーレという名前でした。
「ゾーレっていうのは、
わたしの国の言葉で、
金星っていう意味よ」

ゾーレは、自分の名前を、
自分の国の言葉で書いてくれました。
とてもふしぎな文字でした。
わたしも、わたしの名前を
わたしの国の言葉で書いてあげました。

「夜行列車に乗るのって、はじめて」
ゾーレはいいました。

ゾーレは、前に住んでいた国から
お父さんと弟といっしょに
スウェーデンにやってきたそうです。
それから、いろんな町を転々としたあと、
北にある、ちいさな町へやってきて、
ようやく、
ずっとスウェーデンにいてもいいという
許可をもらうことができました。

スウェーデンのくらしにも
少しずつ慣れてきたけれど、
今の町には学校がないので、
あたらしい国の言葉を
もっと勉強するために、
これからひとりで、
大きな町へひっこすのだそうです。

それで、夜行列車に乗っていたのでした。

「さびしくない?」ときいたら、
ゾーレは、「少しね」といって
わらいました。

そのとき、ゾーレの携帯電話がなりました。
ゾーレの顔が、ぱっと明るくなりました。
「もしもし」
ゾーレは電話に出ると、
わたしにはわからないふしぎな言葉で、
うれしそうにいつまでも話していました。

夜があけ、朝になりました。
列車は、まもなく駅につきます。

「どんな学校に通うの?」
わたしがたずねると、
ゾーレは、
「わかんない」といって、
一枚の紙をとりだしました。
紙には、学校までの地図が
書かれているだけでした。

「これがあれば、なんとかなるわ」

とうとう、駅につきました。
列車からおりるとき、ゾーレは、
「さようなら」といって、
片手をさしだしました。
わたしは、ゾーレの手をにぎりました。
ゾーレもにぎり返しました。
その手は、女の子の手とは思えないくらい、
大きくて力強いのでした。

ゾーレならきっとだいじょうぶ。
わたしは思いました。

つらいときや苦しいとき、
ゾーレのことを思い出すと、
ふしぎと力がわいてくる気がするのです。


ストックホルム到着



今年が、みなさまにとって、
すてきな出会いの
たくさんある年になりますよう!


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テーマ : 本の紹介
ジャンル : 学問・文化・芸術

プロフィール

きただい えりこ

Author:きただい えりこ
スウェーデンに留学し、児童文学と文芸創作を学ぶ。
現在は、小学校の司書をしながら、スウェーデンの絵本・児童書の翻訳と紹介を行っている。
よみうりカルチャー荻窪教室「絵本で学ぶスウェーデン語」講座元講師。
日本の絵本・児童書をスウェーデン語に翻訳し、スウェーデンで紹介もしている。

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