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本だって、人にやさしくなれるんです。


今日は、
読み書きが困難な人たちのための
本を紹介したいと思います。

スウェーデンには、
Lättläst(やさしく読める本)
というものがあります。
一口に読み書きが困難といっても、
その対象はさまざまです。

ディスレクシア(読み書き困難症)
の人たちだけでなく、
移民や高齢者、
読書になじみのない若者も含まれます。
そうした人たちにも、
読みやすく書かれた本が、
Lättlästなのです。

もともとある作品を
読みやすく再話したものもありますが、
ほとんどはオリジナルで、
作家がはじめから読みやすさを意識して
創作しています。

Lättlästが登場したのは1968年。
はじめて試験的に作られました。
その後1987年に
政府によって、
読み書き困難者のための
印刷物の発行を行う
LL協会が設立され、
Lättlästの出版も行うようになります。

1991年には、
Lättlästの出版部門が独立し、
LL-förlaget(LL出版社)となりました。

LL出版社のロゴマーク

LL出版社のロゴマーク

2015年、
再び政府が
LL出版社の事業を
引き継ぐことになり、
現在に至ります。


国が出資しているLL出版社だけでなく、
個々の出版社でも、
やさしく読める本を出しているところが
いくつもあります。

スウェーデン社会全体が一丸となって、
ハンディのある人たちへの
読書支援を支えているのです。


さて、Lättlästとは、
実際にはどんな本なのでしょう?

Lättläst本文

まずは、見た目です。
一文が短くて、文字が大きく、
行間も空いており、
見やすくなっています。

また、短い章ごとに分かれているので、
長文に慣れていない人にも
読みやすく感じられます。

文章の内容も
具体的ではっきりしていて、
日常よく使われる言葉を用いて
書かれています。

Lättlästの本は、
絵やイラストがふんだんに使われたものから、
文章だけの読み物まで、
読み書きのレベルに応じて
いくつかの段階に分けられています。

このように、やさしく読めるよう、
さまざまな工夫がなされていますが、
なんといってもストーリーのおもしろさは、
重要なポイントです。

"Smart för en dag"
(「いきなり優等生」
KG Johansson 作 Hegas社)

小学生のリーヌスは、とてもあがり症。
緊張するとすぐ、
頭野中が真っ白になってしまい、
好きな女の子からも
ばかにされてしまいます。

そんなリーヌスの唯一の自慢は、
最新のかっこいいスマホを持っていること。

ある日、リーヌスのもとに、
一通のメールが送られてきます。
KLOKと名乗る相手からのメールには、
「どんな質問にも、
5クローナでお答えします」
と書かれていました。

半信半疑で試してみると
見事に大当たり。

それからというもの、
KLOKのおかげで、
リーヌスはすっかり優等生になり、
好きな女の子にも
ふり向いてもらえるようになります。

その一方、
ますますKLOKを使わずには
いられなくなっていき、
やがて膨大な額の請求がやってきます・・・。


主人公のドジっぷりに、
思わず笑ってしまうと同時に、
現代の若者にとても身近な問題を扱っていて、
なかなか考えさせられる作品です。


一方、こちらは、移民の少女が主人公。
"Bortgift"
(「アリンの結婚」
Simonette Schwartz 作 LL出版社)

Bortgift表紙

クルディスタンに暮らす少女アリンは、
スウェーデン人のジーノと出会い、
恋におちます。

アリンは一族からの
激しい非難を押し切って、
ジーノと結婚します。

ジーノとともに
スウェーデンに移り住んだアリンは、
新しい国での新婚生活に
胸をふくらませていました。

しかし、まもなくジーノの心は
アリンから離れていき、
言葉の分からない異国の地で、
アリンは孤立してしまいます。

それでも、アリンは、
スウェーデンで生き抜くために、
移民のための学校に通い、
少しずつ前進していきます。


スウェーデンには移民や難民が多く、
やさしいスウェーデン語で書かれた
Lättlästは、そのような人たちにも
よく読まれています。

物語の主人公に共感し、
新しい国でがんばる勇気をもらった人たちも
大勢いることでしょう。

このように、
作品としても完成度の高いものが多いです。


Lättlästは、
読み書きが困難な人たちが読むもの、
という印象もまだありますが、
実はどんな人にも楽しめるものです。

読み書きに障害がある人も
そうでない人も楽しめる。
そんな本が、日本でも
もっと知られるようになったら
すてきですね。


次回の更新は、8月下旬の予定です。




(本の表紙および出版社のロゴの写真は、出版社の許可を得て掲載しています。)


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テーマ : 本の紹介
ジャンル : 学問・文化・芸術

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プロフィール

きただい えりこ

Author:きただい えりこ
スウェーデンに留学し、児童文学と文芸創作を学ぶ。
現在は、小学校の司書をしながら、スウェーデンの絵本・児童書の翻訳と紹介を行っている。
よみうりカルチャー荻窪教室「絵本で学ぶスウェーデン語」講座元講師。
日本の絵本・児童書をスウェーデン語に翻訳し、スウェーデンで紹介もしている。

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