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講演会ふりかえり

前回の記事にてお知らせしました、
絵本作家Emma Virkeさんの
講演会およびワークショップは、
無事に終了しました。

お越しくださいました皆さま、
ありがとうございました。


講演会では、
社会の動きを反映した
スウェーデンの絵本についても
話していただきました。

今回のブログでは、
Emmaさんの講演について、
わたしが後日お聞きしたことも含めて、
ご紹介したいと思います。


難民や移民の人たちが
大勢やってきていることを受け、
スウェーデンの絵本にも、
難民や移民の人たちを描いた作品が
多く登場するようになってきました。

講演では、
そうした作品のいくつかを
実際にご紹介していただきました。

Åka buss表紙

講演で取り上げられた
絵本のひとつ
"Åka buss"
(「バスにのって」 
Henrik Wallnäs 作・Matilda Ruta 絵
Natur & Kultur社)

この作品では、
戦火を逃れて
新しい国にやってくるのは、
ネコの家族です。

戦火を逃れて逃げる主人公たち

難民について扱った絵本には、
動物など人間以外のものを
主人公にすることで、
深刻なテーマを重くなりすぎずに
伝えようとする工夫が
多く見られるようです。


こうした絵本は
主にスウェーデン人の子ども向けに
描かれたもので、
戦争や避難を経験したことのない
子どもたちに、
現状をわかりやすく伝え、
難民の人たちへの理解を
深めてもらうのがねらいだそうです。


難民の子たちは、
まだ言葉がわからないので、
絵本が読めなかったり、
そもそも、絵本を読む習慣そのものが
ないという場合もあります。

そのため、
絵本とはどんなものか、
絵本の楽しさを伝えるところから
はじめる必要があるそうです。


たとえば、
難民宿舎に暮らす子どもたちに、
文字のない絵本を紹介して、
絵本に触れてもらう活動なども
広がってきています。

文字のない絵本であれば、
言葉がわからなくても楽しめ、
また、何が書いてあるのか、
たがいに意見交換することで、
新しい言語の習得にも役立ちます。


移民や難民をテーマにした作品には、
もう少し大きい子向けの
読み物もたくさん出ています。
そうした作品は、
スウェーデンにしばらく住んで、
言葉がわかるようになってきた
子どもたちにも親しまれています。

このブログでも、
以前にいくつかご紹介しましたが、
たとえば
2015年9月の記事で取り上げた
"Baddräkten"(「水着」)
という作品では、
文化の摩擦に苦しみながらも
スウェーデン社会で
一歩を踏み出そうとする
親子の姿を描き、
作品を読んだ難民や移民の子たちから、
「わたしのことだ!」と
共感する声が多く寄せられたそうです。


まだあまり言葉がわからない
移民や難民の子たちでも
手に取ってもらいやすいよう、
スウェーデン語とほかの言語とを
併記して書かれた絵本も
少しずつ登場しています。

"Flykten"
(「避難」
Mia Hellquist Forss 作・絵
Razak Aboud アラビア語訳)

Flykten表紙

この絵本では、
難民となった一家が、
故郷にも友だちにも
すべてに別れをつげて、
安全な国へと逃れていくようすが、
スウェーデン語とアラビア語の
両方でつづられています。

泣く泣く運動場をあとにする男の子
2か国語で併記


しかし、こうした
つらい現状を伝える作品を
当事者の子どもたちが実際に読んだとき、
自分の体験を思い出して
悲しくなってしまうということも
あるのではないでしょうか。


Emmaさんにお聞きしてみたところ、
つらい経験をしたのは
自分だけではないと思うことで
安心できる部分もあるのではないか、
だから、そうした話題を敬遠ぜず、
取り上げることも必要なのではないか、
とのことでした。


そのような考えから、
スウェーデンでは、
絵本であっても
別れや死などの重いテーマを
あえて取り上げることも多いようです。


自分の体験してきたことや
その受け止め方は
ひとりひとり違うでしょうし、
作品の感じ方も異なるので、
何がいい悪いとは、
一概にはいえないと思いますが、
深刻な話題だからと避けずに
取り上げることで、
本選びの幅は広げられるのではないか、
と感じました。



次回の更新は、5月の予定です。
(4月はお休みします)



(絵本の写真は、出版社の許可を得て掲載しています。)
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テーマ : 本の紹介
ジャンル : 学問・文化・芸術

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No title

こんにちは、

素敵なお仕事に携わていらっしゃいますね。

私もスウェーデンに興味があり、今、スウェーデン語を習っています。
どのようにすれば絵本の翻訳のお仕事ができるのでしょうか。

ご連絡を頂けたら大変嬉しいです。

どうぞ宜しくおねがいします。

後藤ゆかり

コメントありがとうございます。

コメントをいただき、ありがとうございました。

私は、気に入った作品を見つけてきては訳して、出版社に持ち込んでいます。
持ち込んでも出版に至らず終わってしまうことも多くありますが、自分の紹介した本を気に入ってもらえたり、読者の方から「読んでよかった。とても心に残った」と言ってもらえたときには、本当にうれしく、やりがいを感じます。

おたがいにがんばりましょうね!
プロフィール

きただい えりこ

Author:きただい えりこ
スウェーデンに留学し、児童文学と文芸創作を学ぶ。
現在は、小学校の司書をしながら、スウェーデンの絵本・児童書の翻訳と紹介を行っている。
よみうりカルチャー荻窪教室「絵本で学ぶスウェーデン語」講座元講師。
日本の絵本・児童書をスウェーデン語に翻訳し、スウェーデンで紹介もしている。

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